地域に元気を届ける「モノづくり」

FIDRは震災後、津波で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町で避難生活を送る人々に、支援物資を届けました。このご縁から、2017年には、FIDRの支援によりベトナムで地域おこしに取り組む少数民族の方々が、南三陸を視察し、地域おこしや震災からの復興への取り組みを学びました。その訪問先の一つが、入谷YES工房でした。

YES工房は、震災後、南三陸町住民の「雇用」と「交流」の場づくりを目指し立ち上がり、「木」という地域資源を活用したモノづくりを行っています。

 

廃校をリノベーションしたYES工房では、南三陸名産のタコをモチーフとした合格祈願グッズ『オクトパス君』(「置くと」「パス(合格)」という意味)の製作から、南三陸入谷地区の養蚕の歴史と文化を伝える『まゆ細工』の製作、そして南三陸町の森林資源を活用する『木製品』の製作まで、様々なモノづくりが行われています。その他にも、モノづくりの楽しさを伝える体験プログラムや交流の場づくり等、これまで南三陸町になかった価値の創造に取り組んでいます。工房の代表理事を務める、大森丈広さんからお話を伺いました。

「モノづくりが好きな若者によるまちづくり」を目指し

震災から10年が経ち、住まいやインフラの再建は進みましたが、人口の減少は大きな課題の一つです。震災後、東北地域全体で人口流出に拍車がかかり、多くの若者が故郷を後にしました。

YES工房は自分たちの特徴であるモノづくりで地域の課題解決に取り組みたいという思いが強くあります。大森さんはこう語ります。

 

「地域、町を創っていく中心は若い世代であって、上の世代がそれを支えるものだと個人的には思っています。町にいる若者が活躍できる場が必要だとずっと前から考えました。YES工房が若者を受け入れられる職場になれば、1名でも2名でも地域に残ることができます。

「モノづくり」が好きな人は様々な世代にいます。そこで、モノづくりが好きな若者の安定した就職先としてYES工房が成長すること、つまり、今後の町づくりを担う若い世代の受け皿となることで、結果として町の発展に貢献できたらと思っています」。

 

モノづくりの職場を継続させるには

モノづくりを楽しみながら、若者を含む地域住民の雇用と交流の場を作ることができても、「利益が出ないと継続した雇用や現場が作れない」と、大森さんはこの数年は工房の継続を一番に考えるようになりました。

YES工房の大事な収入源である教育旅行で受け入れるお客さんの数は、新型コロナウイルスが流行する前は、毎年どんどん伸びていました。体験プログラムの提供を始めた2016年当初は400名だったのに対し、2019年には、2,000名ほどまで受け入れることができるようになりました。

 

ここまで伸びたのは、工房スタッフの皆さんがとても頑張っているおかげだと大森さんは言います。

「工房スタッフ皆の日々の努力により、モノづくりの環境が改善されています。そのおかげで、利益をあげることができますし、教育旅行の受け入れ体制も整備されてきています。提供するプログラムも工房のスタッフ皆が役割分担をし、企画から運営まで行っています。最近では、廃校になった中学校の体育館を改修し、一度に数百人規模のワークショップも開催可能となりました。今後もお客さんのニーズにできる限り対応できるように工夫しつづけます」

 

新型コロナウイルスの影響で、昨年5月には売上が大幅に下がりましたが、苦しい中でも、工房の皆で知恵を絞って乗り切ったと言います。いま世の中でニーズがあるものは何かを考え、体験プログラムにオンライン形式を取り入れました。現在は、現場とオンラインという二つの形式でプログラムを提供するようになりました。

そして、工房の運営を支えているのは工房スタッフだけではありません。観光協会など地域の他の団体や企業が、情報発信や技術的なサポートをしています。大森さんは、工房を継続させるには、関わる全ての方との連携が大切だと言います。

 

体験プログラムを地域活性化につなげる

YES工房が提供する体験プログラムでは、モノづくりの楽しさを感じてもらうとともに、南三陸という町の魅力や特徴を知ってもらえるよう工夫をしています。

そして、もう一つ大事にしているのは、「モノづくりを通じて交流の場をつくること」です。

震災から10年が経ち、高齢者の交流の場づくりを継続できる団体や自治体が少なくなっています。そんな中で、YES工房が昨年から始めたのが、高齢者を対象としたモノづくりワークショップです。

 

「毎回参加費として数百円を頂いて、原材料に充てています。自分自身も、高齢者の方と話すことによって、お金以外の幸福感を感じたりします。なので、参加者の負担が少なく、ゆるい集まりを作れば、継続できると思います。小さい取り組みですが、継続できれば、結果として地域に還元できるし、町に恩返しできるのではないかと考えています。

 

南三陸の町づくりの担い手となる「若者の雇用」の受け皿になれるよう頑張りながら、モノづくりを通じた町内外の方との「交流の場」づくりも大切にしていきたいです」。

YES工房のスタッフがおすすめ!コロナ禍で元気を届けたい商品


YES工房のスタッフが、疫病退散の願いを込めて製作した「アマビエのオクトパス君」と「まゆ細工のアマビエちゃん」を届けます。通常の文鎮の数倍の製作時間をかけて、ひとつひとつ丁寧に仕上げています。


他に、学校や企業の方が楽しく自然のことを学べるワークショップを行っています。「オクトパス君」の色塗り体験から「まゆ細工」体験、南三陸杉間伐材などを素材とした「木工クラフト」等の体験を提供いたします。