地域のコーディネーターとして地域課題に取り組む

岩⼿県⼤槌町で問題となっている、野生鳥獣による農作物被害。その被害が原因で農業を断念する人も少なくありません。大槌町では、増えすぎたシカを価値のあるものにしようと、官民協働の元、2020年5月に「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」が立ち上がりました。

このプロジェクトの立ち上げの中心となったのが、株式会社ソーシャル・ネイチャー・ワークスの藤原朋さん、MOMIJI株式会社代表の兼澤幸男さんでした。株式会社ソーシャル・ネイチャー・ワークスで事務局長を務める藤原悟美さんに、事業立ち上げの背景やこれまでの取り組みについて伺いました。

石巻市から大槌町へ

悟美さんは、岩手県の盛岡市出身。震災後は石巻市の活性化のために、朋さんと一緒にキッチンカーで「石巻やきそば」を販売していました。キッチンカーでの販売も長くなって来た頃、知り合いから朋さん方へ「大槌町でキッチンカープロジェクトを始めるので、アドバイザーとして大槌町に来てほしい」と声がかり、朋さんの復興推進隊着任をきっかけに、家族で大槌町へ移住しました。

地元の人との会話から始まった「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」

そんな藤原さんが、兼澤さんや町民の皆さんと「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」を立ち上げるきっかけになったのは、地元のおばあちゃんとのお茶飲みでの会話だったといいます。

「そのおばあちゃんはキッチンカープロジェクトに携わっていたのですが、旦那さんがハンターだったんです。お茶飲みの中で『ハンターが獲ってくる鹿は自分たちで食べたり、人にあげたりするけど、実はそうやって食べられるのはわずかで、あとは捨てるしかないのを何とかできないものか』という話が出たのです。その声を拾い上げて、一緒に何かやりましょうと言ったのが当時復興推進隊だった朋さんでした。」

そしてちょうど同じ時期、ハンターとして「奪った命を価値のあるものにしたい」と考えていたのが、現在、MOMIJI株式会社の代表である兼澤幸男さんでした。大槌町で生まれ育った兼澤さんは、ハンターが高齢化していくことに問題意識をもっており、大槌町のために何かしたいという強い想いを持っていました。兼澤さんと、地元の猟友会の方、役場の方や町づくりに関わる方など様々な人が加わり、この地域課題を解決しようと勉強会が始まりました。

悟美さんは、勉強会がスタートし、プロジェクトに至るまでの経過を横で見ていて、多様な人が参加して組織を形づくるからこその大変さを感じたといいます。

「生まれも育ちも大槌町という人もいますし、私達みたいによそから来た人もいます。そういった中で、一つのものに向かって進めていくために声掛けしていくところが大変そうでした。」 

勉強会を開始した時から、既に頭の中にビジネスモデルはあったという朋さん。地元の人の想いやアイディアが合わさり、プロジェクトが形づくられていきました。勉強会は約2年半にわたり行われ、2020年5月にプロジェクトとしてスタートしました。

シナジー効果で地域課題の解決をはかる

官民連携の地方創生事業として開始した「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」は、多様な強みを持った様々な方がパートナーシップを組んで、地域課題に取り組んでいます。 

株式会社ソーシャル・ネイチャー・ワークスは、事務局として大槌ジビエソーシャルプロジェクト全体を統括しています。同プロジェクトは、シカの捕獲から、獲った鹿の食肉加工、革や角を使ったクラフト制作、狩猟の現場や大槌ジビエのおいしさを体感してもらうジビエツーリズム、ハンター育成事業、ジビエ事業を他の市町村に広げていくジビエ塾まで、様々な事業が組み合わさっています。これらの事業はそれぞれがつながっており、例えばジビエを食べたことがきっかけでツアーに参加したり、ツアーに参加した人がハンターの育成事業に参加して次のサイクルの担い手になったりなど、好循環が期待できます。これを「ジビエサイクル」と呼んでおり、悟美さんはこの「ジビエサイクル」を多様な関係者との協働体制のもと、円滑に回し、食肉事業だけでは生まれない相乗効果を生み出していくことを大事にしていると言います。

大槌ジビエソーシャルプロジェクトとこれから

プロジェクト開始からもうすぐ2年を迎える中、悟美さんには新たに見えてきたものがあると言います。「今は岩手県内では、食肉加工施設はMOMIJI株式会社のみですが、岩手県の他の市町村でも同じようにジビエをやりたいという方が既にいらっしゃいます。今後はその人たちと一緒に岩手県をジビエで盛り上げようと思っています。」

 

岩手県全体で「いわてジビエ」というブランドが確立したら、今度は東北、というように大槌ジビエソーシャルプロジェクトのモデルを広げていくことが今後の展望だと言います。

 

また、悟美さんは自分たちの役割を「地域のコーディネーターのような存在」だと言います。

「地元の方だけでは難しいことを、外から来た私たちが一緒になって大槌町に還元できたらと思っています。今はジビエに注力してやっていますが、今後ジビエ以外の事業も展開し、大槌町の課題を解決していきたいです。」

藤原悟美さんのおすすめ!大槌ジビエ


鮮な大槌ジビエ  

鹿は捕獲されてから、1時間以内に加工施設に運ばれて、

すぐに一次処理をされています。ここだけの新鮮で

おいしい大槌ジビエ肉です!

生産者のご紹介


ハンター  兼澤幸男さん 

大槌町で一番若手の凄腕ハンターの兼澤さん。

ジビエサイクルの捕獲・食肉という要を担っています。