藍を通して地域をつなぐ

南三陸町にある払川集落。この小さな集落では、数年前から自家製の藍によるモノづくり、藍染め体験会などの地域おこしが行われています。この取り組みを行っているのは「でんでんむしカンパニー」。震災後に南三陸町へ移住した若い女性が立ち上げた会社です。これまで南三陸町になかった藍を栽培し、南三陸の素材を使って藍染製品を作るほか、藍染体験も実施するなど、藍を通して、地域の様々な可能性を探ってきました。

今回はでんでんむしカンパニーの代表である中村未來さんにお話を伺いました。FIDRと中村さんとの出会いは、2017年に、FIDRが長年支援しているベトナム少数民族の方々が、地域おこしの先駆事例を学ぶために南三陸町を訪ねた時でした。

 


 

町の人々の暮らしを取り戻すように

中村さんが大阪から南三陸町に移住したきっかけのひとつが、東日本大震災です。2011年8月に休暇をとり、東北でボランティア活動をしました。

「滞在中、少しだけ町の方とお話しをする機会がありました。そこで、今は何もなくなってしまった被災エリアにも”暮らし”があったことを実感し、当たり前のことだったのに、その時に気付かされ強く衝撃を受けました。さらには諦めずに町を再興しようとしている方々がいて、私もその方々の暮らしを取り戻すお手伝いをしたいと思いました。そして、少なくとも春夏秋冬1年間いて、この地域の暮らしを肌で感じた上で、お手伝いをしなくてはいけない」と思ったのが始まりでした。そして、ご縁をいただいた場所が南三陸町でした。

 

実際に南三陸町で暮らしながら復興の仕事をし、多くの町民と出会い、話を聞く中で、震災後の復旧復興だけでなく、人口減少や少子高齢化、空き家や耕作放棄地の増加等、様々な地域の課題が見えてきました。

「南三陸町に来てから数か月経ち、この町がとても好きになっていました。この大好きな町を未来まで長く残していくためには、地域課題へ向けても今からアクションを起こさないと、復旧復興しても町が未来に続いていかないのではないかと思いました。自分は地域の課題に目を向けて、できることからやっていこうと決心しました」と中村さんは語ります。

 


藍を育てることに

 この町が未来に残り続けてほしいという想いから、中村さんはまず、数人の仲間と耕作放棄地の再生に取り組みました。

 「数人の仲間と、2014年に土を耕し始めたのが「藍事業」のはじまりです。最初から藍の種を蒔いたわけではなく、最初は野菜の種を蒔いて収穫していました。しかし、それだけだと自分たちだけで完結してしまいます。せっかくなら地域の人を繋げられるようなものを育てられたらいいということで、メンバーから『藍はどうかな』と提案がありました


藍の栽培や藍染は、本やインターネットで一から学んだり、徳島県の藍畑を訪問したりして、研究を重ねました。そして、試行錯誤を繰り返しながら、藍染製品を作っていきました。

「育てながらデータを取り、藍のことをどんどん調べていくと、多くの活用の展開が考えられるもので、藍はすごく魅力的だなと気づきました。それが、翌年の種蒔きの原動力になりますね」と言います。

 


 

藍から様々な展開へ

震災後に町ではモノづくりをする女性たちが増え、多くの手作り商品が販売されました。当時は被災地応援という形で全国の方々にたくさん買ってもらえました。

しかし、5年後、10年後にも続けるために、商品そのものが魅力的でありながら、他の地域との差別化を図る必要があると中村さんは考えました。


 「南三陸らしい素材を町内の人々で作って、『メイドイン南三陸』というものができれば、他の地域の手作り品との差別化になります。原料として使える藍を育てて、そしてまゆや羊毛のような地元の素材を藍で染めて町内の作り手さんにモノづくりをしてもらうという一連の流れを作りたいと思い、ここまでやってきました。そして、やっていくうちに、色々な可能性が見えてきて、藍染体験や交流プログラムも開発しました。実際、皆さんに来てもらって、この町を見てもらうことはすごく大切だと思っています」


 さらに、藍だけでなく、南三陸の魅力を伝えるために、「宿」作りも進行中です。町の空き家を自分で直し、南三陸を訪れる人をもてなすところにしたいというのが中村さんの想いです。今年の8月から受け入れができるように準備を進めています。

 「ここに様々な方に泊まりに来ていただき、今行っている藍染体験をこの古民家の空間でやっていきたいと思います。そして、泊まる施設だけではなく、これまで南三陸町に少なかったコワーキングスペースとしても活用できる施設の一つにできたらなと考えます」。


これからも新たな可能性を探りたい

 中村さんは今後、藍染を継続しつつ、藍の食用化に取り組みたいと言います。

「私たちは農薬や化学肥料を使わないで藍を育てています。今の日本では、藍を食べるという習慣が浸透していないので、まず、その展開をしていきたいです。南三陸の藍としてのブランドを確立しつつ、地域の産業の一つに発展させていきたいと思います。そのために、藍に携わる仲間も増やしていけたらなと考えます。」

 


 また、中村さんは「居心地よく生きる暮らし方」を目指しています。

「今働き方が少しずつ変わりつつありますが、新型コロナウイルスの感染拡大前から、今までの働き方が合わず、ストレスを感じながら働いている人がたくさんいると思います。私も前はそうでしたが、今は藍や古民家のことをやり、一つの事業というより、いくつか小さな事業をやりながら、暮らしと仕事を融合したような生き方をしています。こういう生き方、暮らし方も選択肢の一つとして提案できるような人になっていけたらなと思います」


「本当に皆が自分に合った場所や働き方、暮らし方を見つけて、居心地よく生きていって欲しいなという思いは強くありますので、ぜひここに来てもらって暮らしぶりを見てもらい、このような暮らしもあるんだということを知ってもらえたらなと思っています。もしかしたら、勇気づけられることもあるのかな」と語ります。

 

中村さんのおすすめ!南三陸生まれの「藍のお茶」と「宿」



宿も今年の8月に受け入れをスタートし、ここで藍染体験など様々な活動も再開する予定です。原風景の残る美しい払川集落、川の音や鳥の声を聞きながら、ゆったりとした時間を過ごせるはずです!

今年、藍のお茶がオンラインで購入できるようになりました。体にとてもよく、デトックス効果もあるお茶です。ぜひ飲んでみてください!