人と人をつなぎ町に元気を生み出す南三陸福興市

東日本大震災からわずか1か月半で立ち上がった南三陸福興市。南三陸の町民に「福」を「興」す市という思いを込めて名づけられました。それ以来、毎月最終日曜日に開催され、町内外から30店ほどが出店しています。毎月テーマは様々で、その時期の旬な海の幸が主役となるイベントです。

FIDRと福興市との出会いは、2017年に、FIDRが長年支援しているベトナム少数民族の方々と地域おこしの先駆事例を学ぶために、南三陸町を訪ねた時でした。 

今回は、南三陸福興市実行委員長を務め、「山内鮮魚店」の2代目社長でもある山内正文さんにお話を伺いました。

「山内鮮魚店」社長 山内正文さん


震災前に築いたネットワークから福興市のはじまりへ

 

2011年3月11日、巨大な地震と津波によって、壊滅的な被害を受けた南三陸町。町民の中には、家、お店、工場等、何もかも失ってしまった方もいました。山内さん自身もすべてを失いましたが、商売の復活に向けて一歩を踏み出しました。

町の復興と福興市が始まるきっかけとなったのは、震災前に全国の商店街が連携して作った「ぼうさい朝市ネットワーク」でした。このネットワークは、津波等の災害が発生した際に、全国の商店街がお互いに助け合うために始まった取り組みです。南三陸の商店街もこのネットワークに加盟していました。

第一回福興市(2011年4月29日~30日)

震災直後、ネットワークの事務局長が視察に来た際に、山内さんが「テント市から復活したい」と希望を伝えたところ、すぐに全国の商店街よりテント、机、椅子から販売する商品までの寄付が集まりました。そのおかげで、2011年4月29日~30日に、第一回『福興市』を開催することができました。当日は20店舗が参加し、各出店テントに被災した店の看板を作って取り付けたそうです。

「商店街はこれからも商売を続けていくという意思だけを町民に伝えたかった」と山内さんは言います。


 さらに、町民が福興市で買い物ができるように、地域通貨を発行しました。町の名産物であるタコを通貨単位にして、一人につき100タコ(100円)を3枚(300円)、周辺市町村の避難所で離れ離れになっていた町民の1万人に配りました。

しかし、実際には300万円分の地域通貨の元手はなかったため、全国の商店街のみなさんが福興市で販売した売り上げをすべて寄付してくれたそうです。「みなさんのおかげで地域通貨を発行することができて、地域住民の方にも楽しくお買い物して頂けました」と山内さんは語ります。


福興市が生み出したもの

福興市は、震災で商売を諦めるか迷っていた人たちに、お店や商売の復活にチャレンジする勇気を与えました。

「当初、皆は商売できるか不安で、半信半疑で福興市に出店しました。そうしたら、意外と売れて、皆にだんだん自信が生まれてきました。被災地でも商売を続けたら生きていけると、福興市で確認できたのです。そして、次のステップへ進むこともできました」と山内さんは語ります。


福興市当日に参加したボランティアの皆さん

 また、福興市は全国の人々と南三陸をつなぐ役割も果たしています。

毎回福興市の開催にあたり、全国から多くのボランティアの方が来てくれています。これまでに開催された99回のうち50回以上参加した方も珍しくないし、中には97回参加した方もいらっしゃいます。

「私たちは多くの方に支援して頂いていますので、そういう方とのつながりを大事にしていきたいなと思っています。今でも、震災の話をするために全国各地に呼ばれていますが、皆さんへのお礼の気持ちを込めて、交流を続けたいです」。


町全体を盛り上げるために

 震災前から南三陸では色々なイベントが企画・実施されてきました。例えば、毎年12月29日にお正月用の食材を販売する『おすばでまつり』は30年間欠かさず開催されています。この祭りは、南三陸の風物詩であり、近隣の市町村から多くの方が楽しみに参加しています。

 震災後、このような従来からのイベントは全て福興市の一部として開催することとなり、10年間続いてきました。夏まつりはもちろん、たこまつり福興市、鮭まつり福興市等というネーミングで、各種行事とともに、その時期の旬の物産の販売も行われています。福興市は町のイベントになり、近隣地域の方から全国の方までが、いつも楽しみに集まってきます。

おすばでまつりの様子


福興市実行委員会全員集合

2020年4月で、福興市は100回目を迎えるはずでした。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、今年9月への延期が予定されています。

この間、町の皆さんは、オンラインでの販売、ミニ福興市の開催など、感染症防止対策を講じながら、できることを実施しています。

「100回目の開催以降も、福興市を続けるとともに、色々なイベントを実施していきたいです」と山内さんは話します。


福興市には地域の学生もたくさん参加しています。「福興市を通じて、地域の学生との繋がりができました。これはとても大事なことで、ずっと続けていきたいです。町の未来を担うのは若い人であって、皆さんはとても頑張っています。福興市が若い世代にも引き継がれれば、今後も南三陸の魅力を発揮できると信じています」。

山内さんのおすすめ!                                                                              「祝100回記念福興市-大感謝祭-」&夏まつり


2020年4月に福興市100回記念のイベントが予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、開催日を今年2021年9月26日(日)に変更することになりました。

それまでに、7月24日(日)に夏まつりも開催します。昨年10月に開園した「南三陸町震災復興祈念公園」と南三陸さんさん商店街の間に新しく開通した木の橋、「中橋」の上で、色々なアトラクションが行われ、きっと楽しいお祭りになるはず!

開催延期への想いを伝えるビデオをご覧ください